【The WABI SABI. 〜石と和と〜】
統一感・コンセプトというものは、この世界を生きる上で最も大切なものの一つだ。
人生という海原を航海する上でのコンパスだ。
しかし、時と場合によっては、それは邪魔な荷物になる。
凝り固まったイメージや指針により、未だ見ぬ新大陸(物件)を見失う事もある。
時にはコレ、といったイメージを払拭して、停留した都のバザールに繰り出すのはいかがだろうか?
訪れたバザールの商品の中に、とても興味惹かれるものがあった。
入り口はコンクリートむき出しで、オレンジ色のライトで小綺麗にアーバン感を演出している。嫌でも目に入る、いや、入れたくなる。
挑戦的なそのスタイルに敬意を表したボイ宇堅者は、未だ見ぬ地へと足を踏み入れる。
新大陸に足を踏み入れた過去の冒険者は、その時何を想うのだろうか?
今やっとその答えが彼の中で出た。
『単純なワクワク感』
コレに尽きる。
今回の新大陸は、尚その気持ちが心の奥底から溢れ出す。
冷たく輝く、灰色のコンクリート。歩を進めるたびに湧いてくる床の温かみ。
相反する様で、その場に融合されている肯定的な珍妙さが、冒険者の心を捉えて離さない。
部屋の中央に進んでも未だ奥行きがあるこの大陸(へや)の全てを見てみたい。
その一心で、冒険者は更に探索を進めた。
ふと目に飛び込んできたのがキッチンだった。
焦げ茶色が綺麗なピカピカのキッチン。ここで作る料理は美味しいに違い無い。
収納や機能も高水準で何一つ不便なく調理が楽しめるのだろう。
好物のハンバーグを作る過程を想像しながら、別の場所へ・・・
次に水回りのスペースにたどり着いた。
白基調の清潔感あふれるこの場所は、1日の嫌な事全てを洗い流してくれる事であろう。
もしもすっきりしないのであれば、それは少し心に靄がかかっている証拠。
軽く運動をしたり、思いっきり大声を出したりして、もう一度汗を洗い流してみよう。
そうすれば、少しは晴れた空が綺麗に映るはずだ。
LDKに戻って今度はクローゼットを発見した。
かなり大きく、余裕で各シーズンの衣類が収まりそうだ。
四季が織り成す色とりどりの風景を、クローゼットの中でも衣類で再現できそうである。
次の夏はこれをしよう、冬は彼処に行こう。頭の中で巡る旅行計画は如何かな?
さて、ほとんどを見終わって帰ろうとした時に、気づいた。気づいてしまった。
この大陸の最果てを。
体が勝手にその方向に向く。足が前に出る。強烈な引力に吸い寄せられる星屑のように、かの冒険者は最果てに赴いた。
Japanese WABI SABI.
静かに、だが確かな存在感を示す空間がそこにあった。
固い印象の部屋から一転して、とてもとても柔らかで、癒される最果てが存在していた。
障子、襖、そして畳・・・これらが奏でる『無』の演奏を心から聞き入る事ができる贅沢さは、何物にも変えられるものではない。
声を持たない奏者たちの静かな演奏はいつまでも続いていた・・・
まとめ
大陸を全て見た冒険者は、とても満足していた。とてもとても、心からの笑みを浮かべていた。
故郷(会社)に帰ったらまず何から話そうか?
皆(お客様や社員)にはどう伝えようか?
今の彼には、コンパスなど無用であった。心に指針が宿ったのだから。
新しい発見を喜び、伝えたい気持ちで一杯な彼は寄り道もせずにまっすぐ帰路に着いた。