白、静の中で舞い上がる。
いつの日か見た、白の世界。
小鳩の羽のように暖かく、雪のように短命で儚い。
誰にも汚されることのない、白の世界。
大阪の福島には、そんな世界が確かにある。
足元の新雪(廊下)に足を踏み入れる。
一歩、二歩。
見えない足跡が残るようで、少し心が痛んだ。
この世界を壊さないように。
この静寂を切り裂かないように。
三歩、四歩。
たどたどしく、無音の中を進む。
世界は『色』に満ち溢れている。
空も海も、人や動物にも。もちろん『白』にだって。
着色されていない場所はどこにもない。
ないと思っていた。この世界を垣間見るまでは。
どこまでも透き通るような、真白。
日光にさらされたその様は、儚き冬の涙に似ている。
雪化粧をしたその3部屋は、どこまでも続いている気さえする。
部屋の端にあるキッチンに手を添える。
何故だかじんわりと温かみを感じ、目を閉じる。
幼い頃に見た、家庭の食事。
無色の中で思い出される、遠い記憶。
端から端まで歩いて手でなぞる。
少し目頭が熱くなったのは何故だろう?
季節を丸ごと閉じ込められるような収納の前に立ってみる。
やはり過去の記憶がポツポツと蘇ってくる。
誰かと手をつないで歩いた公園、笑い声。
大きく開いた戸を閉めて、深く息を吸い込み、宙に放つ。
真白の中に光る鏡の前に立って自分と周りを見つめる。
上半身のみが映った姿は、まるでしんしんと降る雪の中を舞い上がるよう。
ただそこに白としてある心身の清め場には一切の濁りなく、傷もない。
また目を閉じる。親と一緒に入った湯船の温もり。
『肩までつかれ。1、2、3、・・・』
反響する二つの声。遠いメモリー。
世界から切り取られたような、静かな場所。
実は本当に汚れなのない、無色の場所は、こんなところなのかもしれない。
白から抜け出して、着色された景色を見渡す。
前まで濁って見えた街が、綺麗に色を帯びたように思えた。
真白が人に掛ける、不思議な魔法。
光と風が、自然と解いてくれた。
改めて周りを見渡してみる。
生活をしていく上での、必要な場所。
人の声や周りの音が静かに遠く、心地よい刺激になっている。
着色された世界と、真白の空間が指を絡ませ、新しい世界を生み出した。
まとめ
真白の世界と着色された世界を同じように見つめる。
夕日が白にかかるころ、冷たく固まった境界線が融和し混ざった。
結局、思い出される記憶たちが伝えたいものはわからなかったが、
すんなりと、心の中に染み渡った。
開けた真白の中の雪解け水が、外の世界に流れていくのがわかる。
真白の世界。
雪解けの世界。
誰かのために、またその世界は涙を流し、心を溶かす。